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2024.3.14 軽貨物コラム

【軽貨物配送と2024年問題】ドライバーの待遇改善に本気で向き合う!北商物流の考え方

2024年4月1日、働き方改革関連法によってトラックドライバーの年間の時間外労働時間に上限が設けられます。この法規制は物流業界に大きな影響を与えると予測されており、そこから生じる問題は「物流の2024年問題」と呼ばれています。ニュースや新聞などの報道で耳にした人も多いのではないでしょうか。

物流の2024年問題で注目を集めているのは、長距離を走行するトラックドライバーです。しかし、問題は長距離ドライバーだけに留まりません。短距離での配送を担う軽貨物配送のドライバーにも、2024年問題の影響は及んでいます。

 

今回は、北商物流 代表取締役の瀬戸口 敦(せとぐち あつし)さんに軽貨物業界と2024年問題について解説していただきます。ご自身が軽貨物ドライバーとして奮闘したからこそ、ドライバーの置かれる現状に危機感を持ち、業界を変えるために活動してきた瀬戸口 さん。ドライバーの働き方改革を本気で考える北商物流の取り組みを語ります。

執筆・編集:鹿倉 安澄

改めて知っておきたい 物流の2024年問題とは

 

社会全体の労働環境の改善を目的に制定された「働き方改革関連法」。2019年に施行され、残業時間の上限規制や、有給休暇の確実な取得などが雇用主に対して義務付けられました。

しかし、やむを得ず業務が長時間に及ぶ一部の業界においては、急な人材確保や勤務体制の変更は容易ではありません。そこで運送・医療・建設業界といった特定の職種について、法律の適用までに猶予期間を設けることになりました。この猶予期間が終わりを迎え、2024年4月1日以降はこれらの業界にも働き方改革関連法が適用されます。

 

瀬戸口敦 運送業界では、新しい働き方の導入に対し、業界として十分に準備ができたとは言い難い状況です。そこで、ドライバーの働き方の変化による、物流インフラへの影響が2024年問題として大きく取り上げられているんです。

 

働き方改革はドライバーにとって本当に歓迎すべきことか

 

時間外労働や休日出勤の制限はドライバーの労働環境の改善につながりますから、一見、良いことに思えますが、問題はそう単純ではありません。

 

瀬戸口敦 一台当たりの走行距離が短くなれば、業界全体としてこれまで通りの輸送能力が確保できなくなります。
現在の物流業界は慢性的な人手不足。ドライバーの長時間労働に頼っている部分が大きいので、時間外労働に上限規制が設けられることで、従来と同量の荷物が捌けなくなります。

働き方改革は歓迎すべきことか_【軽貨物配送と2024年問題】ドライバーの待遇改善に本気で向き合う!北商物流の考え方

労働時間の短縮による影響が顕著に出るのが、地方都市と東京・大阪といった大都市圏を結ぶ長距離での輸送です。仮眠を挟みながら1日に500km以上を走ることもザラで、必然的に拘束時間が長くなってしまうそうです。

 

さらに、労働時間が減る分、ドライバーがもらう時間外手当も減ります。収入減から離職にもつながるのは想像に難くありません。結果的にさらなる輸送力の低下を招き、一般消費者はもちろん、多くの企業にも深刻な影響が及ぶとされています。

 

身近な存在だけど意外に知らない? 軽貨物配送ってどんな仕事

 

ここで本題に入る前に、軽貨物配送とはどんな仕事なのか、おさらいします。

 

瀬戸口敦 軽貨物配送(運送)とは、主に軽トラックなどで個人宅配や企業便などを行う運送事業です。物流の全体工程において、ユーザーに荷物を届ける物流の最後のポイントを担うので「ラストワンマイル」とも呼ばれます。

 

軽貨物のドライバーには中型免許や大型免許は不要で、必要なのは普通免許のみです。運ぶのは軽貨物の車両に乗るサイズの荷物なので、大型トラックを長い距離運転するドライバーに比べると、体力面での負担は小さいと世間一般では言われています。

 

瀬戸口敦 軽貨物ドライバーの特徴は、個人事業主が多いこと。物流会社と雇用契約を結んで働く人もいますが、個人事業主として軽貨物事業者との業務委託で働く軽貨物ドライバーが圧倒的多数です。時期によって荷物の量が大きく変動する業界の特性もその一因です。労働の時間制限などを受けずに報酬も出来高制のため、業務委託という働き方が定着しています。

 

“配達員”と聞くと、大手の運送会社のユニフォームに身を包んだスタッフを真っ先に思い浮かべるかもしれません。でも企業向けの配送も含め、実際には、もっと多くの個人事業主のドライバーが軽貨物の配送を行っているんです。このことは、知らない人も多いかもしれませんね。

 

普通自動車免許さえあればチャレンジできる自由な働き方。自身のがんばり次第で多くの収入を得られるところに魅力を感じ、軽貨物ドライバーを選ぶ人もいます。一方で、繁忙期には想定以上の量の配達に追われて長時間労働を余儀なくされたり、歩合制であるがゆえの不安定さがあったりするため、「きつい」「ブラック」などと言われることもあります。

そんな軽貨物配送業界では、どんな2024年問題が起こっているのでしょうか。

 

個人事業主である軽貨物ドライバーは働き方改革関連法の適用外! それでも2024年問題の影響を受ける理由

 

軽貨物配送のドライバーは、その多くが業務委託で働く個人事業主。配送を委託する側には、直接雇用でないドライバーの労働時間を管理する法的な義務はありません。つまり、ほとんどの軽貨物ドライバーは働き方改革関連法案の外側にいる存在であり、2024年4月1日からも、これまで同様に残業時間も休日の稼働も、制限を受けることはないのです。
それでも、2024年問題と無関係ではないのはなぜでしょうか?

 

多重下請け構造の末端にいる軽貨物配送ドライバー 2024年「以前」からの問題

 

働き方改革関連法案によって、雇用者として働くドライバーの労働環境が守られる一方、そこからあぶれた荷物は、個人事業主のドライバーに委託されると予測されています。輸送力不足を解消するための皺寄せが、軽貨物ドライバーにやってくるということです。

 

瀬戸口敦 2024年4月1日を待たずして、そういう事態はすでに現場で起こっています。大手運送業者のドライバーが運びきれない荷物は、同じエリアで配送する軽貨物ドライバーに委託されます。業務委託である軽貨物ドライバーは、業界的に、多重下請け構造の末端にいます。業務委託では、委託元に対して立場がどうしても弱くなりますから、多少無理をしてでも引き受けてしまう、という構造的な問題があるんです。

 

よりたくさん働きたいドライバーにとって、仕事量の増加はマイナスばかりではないでしょう。とはいえ、1日に適正に捌ける件数には限界があります。

1日にさばける荷物の適正量_【軽貨物配送と2024年問題】ドライバーの待遇改善に本気で向き合う!北商物流の考え方

瀬戸口敦 委託される荷物量が限界を超え、無理をして捌くような状況になれば、長時間労働を強いられます。配送品質の低下に繋がったり、睡眠不足や疲労から体調不良や交通事故を招いたりするリスクが高まるところに問題があるんです。

 

これが、2024年問題が軽貨物業界に与える影響です。特に交通事故は、エンドユーザーやクライアント企業、ドライバーだけでなく社会全体にも関わる大きな問題ですから、「関係ない」では済まされません。

 

北商物流としての2024年問題への向き合い方

 

北商物流では創業時から、個人事業主として働くドライバーの労働環境・待遇改善に注目し、真剣に対策を行ってきました。

 

瀬戸口敦 北商物流でも多くの個人事業主のドライバーが、業務委託で働いています。会社として法的には労働時間を管理する立場ではありませんが、私たちは、ドライバー全員の1日の労働時間を把握するようにしています。委託する荷物量を適切に調整するために、荷主との交渉と現場管理を怠りません。

 

今回、法規制を受けるのは年間960時間を超える時間外労働ですが、そもそもこの上限をぎりぎりでクリアするような業務はかなりの長時間労働です。十分な休養に充てる時間がとれず、心身ともに疲れ、事故のリスクが高まります。だから当社では、ドライバーの“働きすぎ”によるリスクを回避するため、力を入れているんです。

 

個人事業主のドライバーの長時間労働は問題視されてはいるものの、今のところ、法律で規制される動きはありません。それでも、「北商物流ではこれまで通り、ドライバーが健康で安全に働ける体制を維持していきたい」と瀬戸口さんは話します。

 

瀬戸口敦 個人事業主だからすべて自己責任、で片付けたくはないんです。ドライバーが自分と家族の生活をきちんと守り、安心して働けるよう「労働環境」に真剣に向き合っています。私自身のドライバー時代の経験をもとに、配慮すべき点・寄り添うポイントには丁寧に一つずつ対応しています。

なかでも交通事故の防止は、ドライバーだけでなく、お客様と社会全体に対して、運送会社として果たすべき責任です。明星大学心理学部 竹内康二教授の監修のもと、安全運転のアドバイスを受ける参加型の講習会を開く、事故を起こしたドライバーへの再教育プログラムを用意する、竹内教授との面談を行うなど、業界初の試みで、輸送品質の向上に本気で取り組んでいます。

安全に関する講習会_【軽貨物配送と2024年問題】ドライバーの待遇改善に本気で向き合う!北商物流の考え方

 

「業界を変えたい」想いを胸にこれからも取り組み続ける

 

多重下請け構造の最下層という立場ゆえ、不当な契約を結ばされる・約束よりも長時間の勤務を強いられるなどのケースもよくある軽貨物ドライバー。瀬戸口 敦さんは、そんな業界の構造と意識を変えたいと2011年に北商物流を創業しました。

 

瀬戸口敦 「2024年問題」は、ユーザー側・配送を委託するクライアント企業側の視点に立った表現です。長時間労働や多重下請け構造など、業界として、ドライバーにとっての問題は以前からずっと存在していました。それらにようやく光が当たるきっかけとなったのが、2024年問題です。

業務委託で働く軽貨物のドライバーは働き方改革関連法の対象ではないからこそ、その受け皿として、物流の2024年問題の余波は必ず、軽貨物ドライバーにも及びます。業界全体として、真剣に受け止めて対策を行う必要があります。

 

2024年問題が叫ばれる前から、運送業界の人手不足はたびたび問題になっていました。その背景にはドライバーという仕事が働き手から選ばれなくなっている現状があります。

個人事業主となれば理論上は上限なく稼げるようになりますが、そんなスーパーマンのようなドライバーはほんの一握り。労働時間は全職業平均よりも2割長く、賃金は全産業の平均より5〜10%低いという統計データも出ています。その厳しさ・不安定さから離職率も高く、有効求人倍率は全職業の平均の2倍と、常にドライバー不足の状態が続いています。業界全体として見れば、残念ながら「安心して一生続けられる仕事」とは言い難いのが実情です。

2024年問題を抱えた運送業界は、このままなんの対策も講じなければ2030年には輸送力の不足から約35%の荷物が運べなくなるとも言われています。

 

瀬戸口敦 2024年問題で運送業界に注目が集まる今こそ、本腰を入れて対策を始めるときです。北商物流は、個人事業主であるドライバーが安心して働ける環境を作るための取り組みを率先して行っています。同様の動きが業界全体で当たり前になれば、ドライバーという仕事へのイメージが大きく改善するはずです。それがドライバー人口を増加させ、ひいては物流業界全体を救うことにつながるかもしれません。

 

「心身ともに酷使するが収入は多い」というイメージが根強い軽貨物ドライバーですが、瀬戸口さんははそんなイメージを払拭していきたいと真剣に語ります。「将来のため、家族のためにより良い環境で働きたい」「安心して、長く健康に働きたい」、そんなドライバーに、納得してやりがいを持って働いてもらえる企業でありたい。今後の北商物流の取り組みに注目です。

 

【参照資料】「2024年問題」解決に向けて 国土交通省 東北運輸局 ~現状課題~
https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/content/000291398.pdf

 

<プロフィール>
瀬戸口 敦(せとぐち あつし)
北商物流株式会社 代表取締役。20代で初めて軽貨物の世界に足を踏み入れ、ドライバー・営業担当を経験。2011年に独立し、北商物流を創業。2023年軽貨物ロジスティクス協会の理事長に就任。ドライバーの置かれる現状に危機感を持って軽貨物業界の意識改革に取り組んでいる。

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