「ニッポンの物流を守れ!〜2024年危機の舞台裏〜」をテーマにした、3月22日(金)放映のテレビ東京 ”日経スペシャル ガイアの夜明け” に北商物流株式会社 社長の瀬戸口 敦が出演。2024年問題が注目されるなか、ラストワンマイルを担う軽貨物配送事業者として、ドライバーが置かれる実情を伝えました。
数ヶ月に及ぶ密着取材で作られた番組では、配達に向かうドライバーから、運賃の適正化のため交渉に臨む様子まで、北商物流のリアルな姿が取り上げられました。
放映直後から、SNSやメールなどで視聴者からの大きな反響が寄せられています。そしてその多くが、実際にドライバーとして働く人たちからでした。
放送を終えた今、皆様からのコメントを受けての考えや補足含め、番組の流れをまとめました。
執筆・編集:鹿倉 安澄
目 次
物流の2024年問題と軽貨物配送
2024年4月1日から働き方改革関連法案が運送業界にも適用されました。その施行を目前に、『ガイアの夜明け』では「物流の2024年問題」を軸に、運送業界の試行錯誤が報じられました。
ドライバーの残業時間に上限が定められれば、これまでと同じ量の配送ができなくなることは明白です。
番組冒頭では、幹線輸送を担う業界最大手の業者が登場しました。2024年問題というと真っ先に、数日かけて1,000km以上を運転する長距離ドライバーが思い浮かぶ人が多いかもしれません。
しかし、2024年問題は長距離ドライバーだけの話ではありません。大型トラックが運んだ荷物は最終的に、軽貨物配送業者によってお客様の手元まで届けられます。長い物流ルートの中で、お客様に届ける最後の部分を担うので「ラストワンマイル」とも呼ばれる軽貨物配送。長距離ドライバーのようにトラックの中で仮眠をとりながら運転を続けるわけではありません。しかし、増え続ける荷物と不在再配達、加えて低賃金により、軽貨物ドライバーにおいても、長時間労働が常態化しています。
玄関先まで荷物を届けてくれる宅配サービスといえば、大手運送業者のユニフォームに身を包んだスタッフの印象があります。しかし、実際にはもっとたくさんの軽貨物配送ドライバーが荷物を届けています。そして彼らのほとんどは、個人事業主として業務委託で働いているのです。
「働き方改革」で個人事業主のドライバーの労働環境はさらに悪化する恐れも
個人事業主のドライバーは働き方改革関連法案の適用外で、2024年4月以降もこれまで通り、残業時間にも休日の稼働にも制限がありません。そのため、企業に雇用されるドライバーの残業時間が減って運びきれなくなった荷物は個人事業主のドライバーに委託され、今後さらなる長時間労働につながりかねない、という懸念があります。
関連コラム 【軽貨物配送と2024年問題】ドライバーの待遇改善に本気で向き合う!北商物流の考え方
瀬戸口 敦 「番組では、軽貨物車両の事故が多発している、と紹介されていました。実際、事故の件数は貨物業界全体では減っていますが、軽貨物においてはむしろ、増えているんです」(参考:国土交通省資料 事業用軽貨物自動車の事故の特徴)
瀬戸口 敦 「時間に追われればドライバーに焦りが出ますし、運転時間が長くなるほど事故が起きる確率も高まります。
それでも大量の荷物を運ばなければならないのは、軽貨物の配送業務が基本的に低賃金だからです。歩合制のため数をこなさなければ、ドライバーの生活が成り立たないところに業界の抱える問題があります」
ドライバー本人にはもちろん、社会にも、交通事故は大きなインパクトがあります。対策の必要性を誰もが感じていても、多くのドライバーが個人事業主である以上、安全管理に一定の基準を設けるのも難しいと言えます。
瀬戸口 敦 「自社で雇用するドライバーであれば、雇用主には安全管理の義務がありますし、事故を起こせば雇用主側の責任も問われます。
でも、業務委託のドライバーが配送途中に事故を起こした場合、委託元としては”事故を起こしたのは委託したドライバーの責任”という捉え方をすることも考えられます。
極端な言い方をすれば、事故を起こしたドライバーを切り捨てれば、自社の責任問題に及ぶことはない、そんな考え方すらあります」
北商物流も多くの個人事業主のドライバーに業務を委託しています。こんな現状を変えなければならないと思い、ドライバーが安全運転を実践できるよう、さまざまな取り組みを行っています。
事故を「個人の責任」で終わらせない 企業としての責任感
その一つが、半年に一度の安全運転講習会の開催です。
自社で雇用する社員に対してこういったセミナー・研修を開催する企業はありますが、北商物流のように業務委託契約のドライバーにまで対象を広げて実施するのは非常に珍しいことです。
瀬戸口 敦「交通事故を“自分事”として受け止めて欲しいから、ただ話を聞く・講義を受けるという受け身のものではなく、ドライバーが主体になる参加型の講習会にしています。
実際のドライブレコーダーの事故映像を見ながら、事故が起きた理由、防ぐための対策などをディスカッションしながら学び、事故が発生するとどれだけ多くの方に迷惑をかけ悲しませるのかを、全員に考えて発言してもらいます」
安全運転に本気で取り組む北商物流。その考え方がよく現れているのが、「遅配しても構わない」と言い切る姿勢です。
瀬戸口 敦 「もちろん、指定された時間内に配送するのが基本です。運送会社として、決して時間にルーズでいいと思っているわけではなく、優先順位の問題です。遅配しても人は亡くなりませんが、交通事故では人命が失われることがあります。焦って事故を起こしてまで時間内に運ばなければならない荷物はありません。危険な運転をするぐらいなら遅配する方がずっとマシだと思っています。
ただし、遅配がわかった時点で、ドライバーには、すぐにお客様に連絡を入れて遅れる旨を伝えてもらっています。万が一、クレームに発展してしまったら私たちが責任を持ってサポートに入ります」
「自己責任」の名の下に、多くの業務を引き受けるしかない個人事業主のドライバーにとって北商物流のような会社は、非常に心強い存在です。
軽貨物ドライバーの置かれる厳しい実情
事故が増えている根底にある「低賃金」という問題にも、真っ向から向き合っています。
瀬戸口 敦「ドライバーが人として普通の生活ができる最低限のラインの収入が保証されなければならないと思っています。
軽貨物業界で、10年・15年と経験を積んでいくベテランドライバーは本当に一握り。一般的な軽貨物配送会社だと、1年で3分の1のドライバーが離職し、3年経てば当初のメンバーはほぼ残っていない、ということも珍しくありません。そのくらい、離職率が高いんです」
普通自動車の運転免許と、軽トラック1台さえあれば始められる軽貨物ドライバー。参入のハードルは低くとも、安定収入を得て、継続できる人はごく少数です。同じ運送業界でも、大型車に比べ、軽貨物配送は軽視されがちで、厳しい立場に置かれています。
瀬戸口 敦「ドライバーの待遇を上げないと、魅力ある業界になりませんし、家族からも応援してもらえない。それではドライバー自身が辛くなるし、結局続けていけないんです。家族に誇れる仕事になってほしい、という想いがあります」
番組では、運賃適正化のため、荷主企業との交渉に出向く姿が映し出されました。
ここ1年、大手運送会社の運送料値上げのニュースが取りざたされています。低賃金に加え、高騰するガソリン代と人件費が拍車をかけます。交渉の結果、熱意が伝わり、荷主企業にも好意的に受け止められました。
瀬戸口 敦「そもそも料金交渉をしていいのかな、というのもあったんです。昔からの慣習的な部分ですが、軽貨物配送業者は、業界全体として、なんとなく引け目を感じています。今回、荷主様から前向きな反応をいただいて、ホッとしました。実際にやってみたからこそわかったことで、会社としても大きな一歩になりました」
「配送」を超えた価値を提供 高単価案件を獲得する秘訣
瀬戸口 敦「荷主様に現状に合わせた運賃の適正化をお願いするだけではなくて、自分たちの努力で、仕事の単価を上げていくことも大切だと思っていて。”運ぶ”以上の付加価値を提供することを意識しています」
一般的な配送業務よりも高単価な案件として、北商物流では、大手家電メーカー ヨドバシカメラの家電配送を行っています。具体的にはどんな「付加価値」を作り出しているのでしょうか?
機器の設置・初期設定もドライバーが担当 ヨドバシカメラのテレビ配送
瀬戸口 敦「お客様が購入したテレビやHDDレコーダーなど、テレビ周りの一連の機器の配送を行います。それに加えて、設置と機器の初期設定、不要になったリサイクル品の回収までドライバーが行います。
一度の配送で古いテレビが新しいテレビに置き換わり、すぐに視聴できますから、お客様の使い勝手が良いですよね」
瀬戸口 敦「この業務では、配送以外にテレビ周辺機器の知識・技術が求められます。リサイクル品の収集・運搬も行うため、会社として産業廃棄物収集運搬業許可を取得しました。もちろん、どんな機種にも対応できるように日々の勉強は欠かせません。
特別な工程が必要ですが、誰もができる仕事ではない分、高単価を実現できました」
玄関前で荷物を渡して終わる仕事とは、正反対の業務。お客様の家の中まで上がらせてもらい、長いときには2時間くらいかかることもあります。それゆえドライバーさんの接客態度・清潔感には非常に気を使っています。
高単価な案件の例として、番組では、有機野菜・オーガニック食材を扱う宅配サービス「ビオ・マルシェ」の配送の風景が取り上げられました。
瀬戸口 敦「不在の時はここに置いてほしい、チャイムは鳴らさないでほしい、など、お客様ごとの取り決めがあります。きめ細やかな配慮と、きっちりした顧客管理が求められる仕事です」
玄関先にひざをついて丁寧に一点ずつ商品を並べて説明する担当ドライバーの村上さん。映像で見たその仕事ぶりに「あそこまでやってくれているのには正直少し驚いた」などの反響が有ったと嬉しそうに話を続けます。
瀬戸口 敦「放送後の配送時に、『ガイアの夜明け』を心待ちにしてくださっていたお客様からたくさん声をかけていただいたと、配送業務終了後に村上が報告しに来てくれました。一人ひとりにあわせたオーダーメイドの配送を確実に提供することで、人間関係が出来上がってるんだな、と感じました」
丁寧なコミュニケーションで「運び手」以上の存在に
瀬戸口 敦「村上の前職は営業。ビオ・マルシェの配送でも、コミュニケーションの中で自然な形で、商品の魅力をお客様に伝えていますね。お客様も”村上さんがおすすめするなら試してみようかな”と、購入いただくこともあります。単なる商品の運び手としてだけでなく、下地の信頼関係が築けているからこそできる仕事を増やしていきたいと考えています」
現在、ビオ・マルシェの配送を担うドライバーは、東京だけで約7人。求められる能力は、「丁寧な作業」「人当たりの良さ」「個々に合わせた適応力」など。案件に合わせて、ドライバーの人選は慎重に行っています。
「ビオ・マルシェの配送では、スピードや件数をこなすことは求めていない」という言葉通り、番組では、6時半から開始した40件の配送業務を昼には終え、自宅で昼食をとる姿が映し出されました。
業界的に長時間労働が当たり前のうえ、「働き方改革」の外側にいる軽貨物ドライバー。そのほとんどが個人事業主である彼らにとって、希望となる光景だったのではないでしょうか。
瀬戸口 敦「北商物流として問題意識をもって取り組んできたことが、今回、TV放映を通じて広く知ってもらえたのは大きな一歩だと感じています。
視聴してくれた人たちの生の声にSNSで触れ、私達の取り組みを好意的に受け入れてくださった方々から励ましのメッセージをもらえたのは非常に励みになっています。嬉しいことに、北商物流で働きたい、と声をかけてきてくださったドライバーさんもいます。志を同じくする仲間たちと、業界を変えるために、これからも走り続けていきます」
「運ぶ」を超えた価値を提供すること。荷主企業にとっても、自社製品に関する高度な知識・技術が求められる業務を配送業者に任せられるのは、大きなメリットでもあります。
北商物流の取り組みは、ドライバーと荷主企業の双方にとってプラスとなり、業界全体を変えていくための重要な足がかりになるのではないでしょうか。
<プロフィール>
瀬戸口 敦(せとぐち あつし)
北商物流株式会社 代表取締役。20代で初めて軽貨物の世界に足を踏み入れ、ドライバー・営業担当を経験。2011年に独立し、北商物流を創業。2023年軽貨物ロジスティクス協会の理事長に就任。ドライバーの置かれる現状に危機感を持って軽貨物業界の意識改革に取り組んでいる。
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