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2024.4.25 軽貨物コラム

道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く – フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流 –

北商物流は、国際NGOワールド・ビジョン・ジャパンを通じて、フィリピン共和国北サンボアンガ州ミンダナオ島の橋梁建設をサポートしました。2022年1月から約1年の工事期間を経て完成した橋は現在、地元の人々にとって欠かすことのできない交通インフラの一部となっています。
途上国での支援活動というと、改まった特別な事業のように思われますが、スタート地点は意外にシンプルなものでした。取り組みのいきさつから、プロジェクトのあらましまで詳しくお伝えします。

執筆・編集:鹿倉安澄

橋の上の子どもたちー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流

支援を始めたきっかけはチャイルド・スポンサーシップ

 

瀬戸口 敦「きっかけはカンボジアの子どもたちを支援するチャイルド・スポンサーシップへの参加です。最初から、フィリピンに橋の建設をする、という明確な計画があったわけではありませんでした」

 

チャイルド・スポンサーシップは、困難な環境で暮らす途上国の子どもたちに対して、継続的に寄付を行う取り組みです。毎月、一定額の支援金を送ることにより、子どもの住む地域一帯への援助が行えます。支援する側は、特定の子どもと手紙のやりとりを通じて交流し、長期にわたって成長を見守ります。

 

瀬戸口 敦「こういった活動は複数の支援団体が行っています。その中でワールド・ビジョン・ジャパンを選んだのは、大人が子どもを選ぶのではなく、子どもが自分を支援・交流する大人を選ぶプログラム”Chosen(チョーズン)”があったからです。

 

Chosenでは支援予定の大人が、最初に自分の写真を1枚送ります。現地の子どもはそれを見て気に入った人を選び、交流が始まるんです。子どもたちが主体となり、直感的かつ自由に選択できるところに魅力を感じ、参加を決めました」

 

4年ほど前から北商物流として、Chosenに取り組んでいます。費用を会社が負担し、有志の社員6名が支援者として参加しています。

 

瀬戸口 敦「Chosenは、子どもたちの成長を見守るため、数年間の継続的な支援が前提であると社員には説明しています。スポンサーになるにあたって、自然と、社員各々の将来やキャリアプランの話題につながり、先を見据えた話をする良いきっかけになっています。

 

みな取り組みの趣旨をよく理解してくれて、社員にはすんなり受け入れられました。社としての取り組みがなければ個人的に寄付をしたい、と申し出る者までいたほどです」

 

軽貨物業界を変えたい、という広い視野を持つ北商物流。そんな社風を日頃から肌で感じている社内のメンバーには、「困っている人は助けよう」と当然のように思う空気があるのかもしれません。

 

瀬戸口 敦「Chosenで子どもたちと手紙のやり取りを通じて交流を重ねていると、彼らの存在を身近に感じます。
私がやりとりをしているのは小学校4年生のサッカーが好きな男の子です。お互いの誕生日を祝い合ったり、背がこれだけ伸びて大きくなったよ、と報告をくれたりします。遠く離れた国にいる子ですが、成長がうれしく、見守り続けたいと思っています」
chosenでの手紙ー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流

こうしてChosenに参加して1年が経った頃、「さらに踏み込んだ支援をしたい」と考え始めました。

 

道路インフラに関わる企業として子どもたちの未来のためにできること

 

Chosenで支援していたのはカンボジアの子どもたちでした。次なる支援先は、なぜフィリピン・ミンダナオ島になったのでしょうか?

 

瀬戸口 敦「特定の地域に絞るよりは、途上国の子どもたちのためにできることはないか、という視点で支援先を検討していました。

彼らは、想像以上に厳しい環境に置かれています。行政や社会システムが未熟で、自国の努力だけではどうにもできない。そんな実情を知り、私たちは海外に目を向けたいと思いました。
世界中に解決すべき課題があるなかで、道路・輸送という社会インフラに関わる企業として、援助が必要な地域を探しました」

ミンダナオの風景ー橋の上の子どもたちー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流
瀬戸口 敦「Chosenを運営するワールド・ビジョンは37カ国(2023年度実績)で活動する世界的な団体です。子どもたちへの支援と交通インフラの整備という2つの軸で、支援が必要な地域はどこか相談。行き着いたのが、ミンダナオ島の道路に橋をかけるプロジェクトでした」

 

フィリピンの貧困地域が抱える課題を解決に導く橋梁の建設

 

近年では開発が急速に進んだ印象もあるフィリピンですが、ミンダナオ島は、1960年代から長く続いた紛争とその後の和平プロセスの難航により、開発されず取り残されています。国内で最も貧しい地域であり、橋の建設を行ったエリアの貧困率は70.5%と極めて深刻、現在も最低限の生活インフラさえ十分ではありません。
道路を横断する川ー橋の上の子どもたちー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流
瀬戸口 敦「この写真を見てください。道路の真ん中を川が横断していて、水に入らなければ道路を通れません。晴れている時ですらこの状態です。雨の後や、雨季ともなれば、水かさが増して水流も早くなり、徒歩はもちろん、住民の主な交通手段であるバイクでの横断も困難になります。大人ですら流されますし、子どもにとっては非常に危険です」

 

日本では考えられないこの危険な道路が、地域の大動脈となる交通インフラの一部である事実に驚かされます。この地域は主要な市場から約18キロ離れており、この道が通行できなければ十分な経済活動が行えず、機会損失による収入低下を招いています。

 

瀬戸口 敦「役所に行くにも、通学するにもここを通る必要があります。物流もこの道路が命綱。
雨のたびにこの道路が川で寸断されて使えなくなることは、地域にとって大きな痛手でした。主産業である農産物が運べなければ、安定的な収入が得られませんし、子どもたちは通学を諦めるしかありません。
インフラ整備がなされていないせいで、貧困のループを断ち切れない事情がありました」

増水した危険な道路ー橋の上の子どもたちー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流
瀬戸口 敦「行政側では橋の建設の予算を確保できず、住民も諦めている、と聞いています。
我々は運送というインフラを担う企業です。生活基盤としての道路の整備が、いかに大切か身に染みています。
この道を天候・季節に関係なく一年中、機能させたい。橋を架けるための支援をしたいと思いました」

 

実際の橋の建設では、川の左右の土手部分を作る地盤改良工事を行い、道路部分にボックスカルバートと呼ばれる箱型のコンクリートの構造物を設置。道路を横断する川ー橋の上の子どもたちー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流道路を数メートルかさ上げし、川の水量に関わりなく安心して通行できる頑丈な橋を建設しました。

 

「子どもたちが安全に学校に通えるように」とスタートした活動がいつしかCSR・SDGsにつながっていった

 

北商物流の支援によって完成した橋は2022年12月、現地の人々への引き渡しを迎え、譲渡式が行われました。

子どもの声ー橋の上の子どもたちー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流

瀬戸口 敦「ミンダナオ島は治安の問題があり、外務省から渡航を控えるよう勧告が出ている地域。詳しい方にも相談しましたが残念ながら現地に出向くことはできず、オンラインでの参加になりました。
後日、式典の様子を収めた写真を見て、思っていたよりたくさんの人が来てくれていたことを知りました。こんなに多くの人から大きな期待を寄せてもらっていたんだ、と胸が熱くなりました」

 

写真には、多くの子どもたちの姿が映っています。今回の支援活動では、「子ども」がキーワードになっています。
譲渡式の様子ー橋の上の子どもたちー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流
瀬戸口 敦「今思えば、すべては、子どもの就学を支援したいという気持ちから始まっています。子どもたちが学校に行き、いろんな可能性を学び、選べるようになってほしい。

 

Chosenで子どもたちと交流を続ける中で、その想いがますます強まりました。学校に行けないだけで、彼らの将来の可能性が狭くなってしまうことを実感し、就学率アップにダイレクトに貢献したい、という気持ちが今回の取り組みの出発点になりました」

 

北商物流は、事業を通じてSDGs達成への積極的かつ継続的な取組みを実践していると評価され、東京都北区から「SDGs推進企業」として認証を受けました。
「SDGs」という言葉に触れる機会は本当に増えましたが、北商物流の取り組みはごく自然な流れでスタートしました。

 

瀬戸口 敦「当たり前ですけれど、子どもは宝ですよね、どこの国でも。日本よりもっと困っている国があり、支援の手が届きにくい状況なのですから、そこで暮らす子どもたちに対して支援したい、という気持ちはおのずと湧き上がってきました」
チャイルド・スポンサーシップー橋の上の子どもたちー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流
Chosenには「足長おじさん」のようなイメージでひっそりと参加。今回の橋梁建設は大きなプロジェクトだったのでプレスリリースを出したところ、思ったより反響があって驚いたといいます。
大手企業が社会貢献プロジェクトを行う話は耳にしますが、北商物流のような規模の会社が一社単独でこういった支援を実行するのは異例のことだからかもしれません。

 

瀬戸口 敦「”CSR活動”“SDGs”と言えばその通りなんですが、個人的には、もっとシンプルに考えています。ただ、子どもたちの力になりたい。これからも、何らかの形で支援を続けていこうと思っています」

 

子どもたちの未来をより良くしたい、そんな想いから始まった支援活動。北商物流が架けた橋は、道路だけでなく、地域に暮らす子どもたちの可能性もつなぐものになっていくはずです。

 

<プロフィール>瀬戸口社長ー橋の上の子どもたちー道路インフラの整備で子どもたちの未来を拓く〜フィリピン・ミンダナオ島での橋梁建設 北商物流

瀬戸口 敦(せとぐち あつし)
北商物流株式会社 代表取締役。20代で初めて軽貨物の世界に足を踏み入れ、ドライバー・営業担当を経験。2011年に独立し、北商物流を創業。2023年軽貨物ロジスティクス協会の理事長に就任。ドライバーの置かれる現状に危機感を持って軽貨物業界の意識改革に取り組んでいる。

 

 

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